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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)738号 判決

静岡市追手町六〇番地

控訴人(附帯被控訴人)

静岡税務署長

右指定代理人

榊原礼一

加藤隆司

望月伝次郎

服部操

松下貞男

静岡市馬淵町六丁目三七番地

被控訴人(附帯控訴人)

栄太郎こと 加藤英太郎

右訴訟代理人弁護士

大蔵敏彦

右当事者間の所得税更正決定取消請求控訴及び附帯控訴事件につき左のとおり判決する。

主文

原判決控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

第一、二審の訴訟費用(附帯控訴費用を含む)はすべて被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人)代理人は、昭和三一年(ネ)第七三八号事件につき、主文第一、二項同旨及び「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、昭和三一年(ネ)第一、八八一号事件につき、附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)代理人は、昭和三一年(ネ)第七三八号事件につき、控訴棄却の判決を求め、昭和三一年(ネ)第一、八八一号事件につき、被控訴人(附帯控訴人)が提出した附帯控訴状の記載によると、附帯控訴の趣旨は、「原判決を左のとおり変更する。附帯被控訴人が昭和二八年三月二〇日附をもつて附帯控訴人に対じ昭和一七年度分の所得税の総所得金額を五七万〇、二〇〇円と更正した決定のうち、二〇万円を越える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求めるというのである。

当事者双方の主張の要旨は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

当事者双方の立証及び認否は、控訴人(附帯被控訴人)代理人が新たに、乙第一〇号証、第一一号証の一、二の(イ)ないし(ニ)、及び三、第一二号証の一ないし三、第一三、第一四及び第一五号証を提出し、当審証人朝比奈格次郎、同加藤一枝及び同酒井豊治の証言を援用した外は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

理由

一、被控訴人(附帯控訴人)(以下単に被控訴人という)が、静岡市馬淵町六丁目三七番地において桐下駄の製造業を営むものであつて、昭和二十七年度分の総所得額を二〇万円と記載した確定申告書を控訴人(附帯被控訴人)(以下単に控訴人という)に提出したところ、控訴人が昭和二八年三月二〇日右総所得金額を五七万〇、二〇〇円と更正し、同月二四日被控訴人にその旨の通知をしたこと、これにつき、被控訴人が同年四月二二日再調査の請求をし、同年七月一五日請求棄却の通知を受けたので、更に同年八月一四日審査の請求をしたところ、昭和二十九年四月一五日請求棄却の通知を受けたことは、当事者間に争がない。

二、そこで、被控訴人の昭和二七年度における資産若しくは負債の増減又は支出状況等についてみるに、

(1)  在庫商品、現金、預金、売掛金、工場、機械、買掛金及び借入金の価額若しくは金額が原判決添附別表(以下単に別表という)の差引残高欄記載のように増加し、公課、家事費及び医療費の支出額竝びに減価償却費の金額が別表の差引残高欄記載のようであることは、被控訴人の認めるところである。

(2)  成立に争のない乙第三号証の一、二、原審証人加藤豊三郎の証言によつてその成立を認める乙第四号証、当審証人朝比奈格次郎の証言によつてその成立を認める乙第一〇号証、当審証人加藤一枝の証言によつてその成立を認める乙第一一号証の一(同号証添付の写真については、同証言により、その原本の存在及び成立を認める。)当審証人酒井豊次の証言によつてその成立を認め乙第一一号証の二の(イ)ないし(ニ)(ロ)ないし(ニ)については、同証言により、原本の存在と成立を認める。)及び第一二号証の一ないし四(同号証の四については、同証言により、その原本の存在及び成立を認める。)竝びに原審証人加藤豊三郎、同加藤武次郎、当審証人朝比奈格次郎、同加藤一枝及び同酒井豊治の証言を総合すると、被控訴人が昭和二七年初頃朝比奈格次郎外一名から静岡市馬淵町六丁目三八番地の一及び二所在の宅地合計約一二〇坪(その価額が合計二一万六、〇〇〇円であることについては当事者間に争がない。)を長男栄蔵名義で買い入れ、同年中にその代金を支払つたことが認められるので、被控訴人の土地の価額が別表の差引残高欄記載のように増加したことが明らかである。被控訴人は、「右土地の買い入れも、その代金の支払も昭和二六年中である。」と主張するのであるが、これに添う乙第三号証の一及び二中の登記原因の日附、原審証人田代善吉及び同増田幸四郎の証言竝びに原審における被控訴本人の供述は、前掲の証拠に比照して、信用することができず、他に被控訴人の主張事実を認めて、前記認定を覆すに足りる証拠がない。

(3)、成立に争のない乙第一号証の一、二、原審証人加藤豊三郎の証言によつてその成立を認める乙第六号証、当審証人加藤一枝の証言によつてその成立を認める乙第八号証竝びに原審証人加藤豊三郎及び同加藤武次郎の証言を総合すると、被控訴人は、竹田恂一に請負わせて、昭和二七年五月、静岡市馬淵町六丁目三七番地所在木造瓦葺平家建居宅一棟建坪約一五坪(その価額が三〇万円であることについては、当事者間に争がない。)の新築に着手し、同年七月これを完成し、その代金を支払つたことが認められるので、被控訴人の建物の価額が別表の差引残高欄記載のように増加したことが明らかである。被控訴人は、「右建物は、宗教団体阿気之摩利支天教会の信徒の寄附金によつて建築された同教会所有の建物であると主張するのであるが、これに添う甲第一号証の三、甲第二号証の二、甲第三号証及び乙第一号証の三、四の記載内容、原審証人田代善吉及び同居初泰助の証言竝びに原審における被控訴本人の供述は、前掲の証拠に比照して、信用することができず、他に被控訴人の主張事実を認めて、前記認定を覆すに足りる証拠がない。

三、以上の在庫商品、現金、預金、売掛金、土地、建物、工場及び機械の増加額と公課、家事費及び医療費の支出額との合計額から買掛金及び借入金の増加額と減価償却額との合計額を差引いて推計すると、被控訴人の昭和二十七年度における総所得金額は、七五万二、六三六円となり、控訴人がした更正額を超過することが明らかである。

原審証人望月武の証言によると、控訴人が被控訴人の昭和二七年度における所得を調査した際、帳簿その他収支に関する資料が足りず、又はその記載洩れがあつたことが認められるので、控訴人が、前記のように、資産若しくは負債の増減又は支出状況から、被控訴人の総所得金額を推計して、被控訴人の確定申告書記載の総所得金額を五七万〇、二〇〇円と更正したのは、相当であるから、被控訴人の本訴請求は、失当として棄却すべきである。

四、よつて、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は、失当であるから、これを取り消して、被控訴人の請求を棄却し、また被控訴人の附帯控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 角村克巳 判事 菊地庚子三 判事 吉田豊)

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